親族内承継について、人(経営)、資産、知的資産の三要素、さらに資産の中でも債務の承継や、後継者による資金調達といった側面から、課題と対応策を紹介する。他の類型と比較すると、税負担への対応や株式・事業用資産の分散防止、債務の承継への対応に関して特に大きな課題が発生しやすいという特徴を有する。
後継者の選定は事業承継に向けた第一歩であり、事業承継の成否を決する重要な取組である。しかし、経営者が胸の内で後継者候補の見当をつけておけばよいというものではない。事業承継について後継者候補の同意を得た上で、必要な育成を行いつつ、親族や従業員、取引先等の関係者との対話を進める必要がある。これらは一朝一夕で成しえるものではなく、時間をかけて慎重に取り組まなければならない。
事業を承継するということは、後継者の人生に大きな影響を与える難しい決断である。後継者に、事業を受け継ぐ者としての自覚を持たせ、事業承継に向けて経営者と二人三脚で準備を進めてもらう必要がある。そのためにも、早い段階から後継者との対話を重ね、事業の実態とともに、現経営者の想いや経営理念を共有していくプロセスが重要である。「以心伝心」や「阿吽の呼吸」と言えば聞こえはいいものの、何よりも「現経営者と後継者の対話」、これを通じた「事業についての認識の共有」を重ねていくことが重要である。
他方で、後継者候補としては、自身の家業に抱く将来像を現経営者とすり合わせて、現経営者の想いや経営理念を理解するとともに、後継者としての自覚を持つことが重要である。また、承継に当たっては、信頼関係を構築すべく、現経営者とも付き合いのある従業員や取引先等とも対話を重ねていくことも重要である。
中小企業の経営者には、事業運営に関する現場の知見はもちろん、営業、財務、労務等の経営管理に関する幅広い知見も必要である。実際、現経営者が後継者を決定する上で重視した資質・能力としては、「経営に対する意欲・覚悟」に加え、「自社の事業に関する専門知識」や「自社の事業に関する実務経験」の割合が高く、知識や経験が重視されている。このような能力を短期間で習得することは不可能であるから、後継者教育には十分な期間を準備し、必要な経験を積ませる必要がある。事業を引き継ぐことが決定している後継者候補が経営者になるために必要だと思う準備期間は、「1年以下」の短期も少なくない一方で、5年以上との回答が約5割を占める。
従業員承継については、一般的に後継者が将来経営者になることについての認識が弱いと、後継者である従業員の家族や、現経営者の親族といった関係者の理解を得ることが容易ではないこと、株式や事業用資産を有償譲渡する場合の買取資金の調達が容易ではないことなど、特有の困難な課題があるため、時間を掛けて進めていたにもかかわらず、最後の段階で頓挫してしまうことも少なくない。
従業員承継の場合、後継者が現経営者から事業承継の意思を伝えられてから経営者に就任するまでの期間は親族内承継と比べて短い傾向にあるが事前に生じ得る課題を把握した上で早めに準備に着手することが重要である。
従業員承継のメリットの一つは、既に述べたとおり、経営者としての能力のある人材を見極めて承継させることができることである。実際、従業員承継においては、後継者を決定する上で、親族内承継と同様、「自社の事業に関する実務経験」や「自社の事業に関する専門知識」、「社内外のコミュニケーション能力」といった資質・能力が重視されている。
(参考:事業承継ガイドライン(第3版))
事業承継税制を活用することで、後継者に承継された自社株式に対しての相続税や贈与税の納税猶予を受けることができます。関与先等が親族内承継を検討している場合には、事業承継税制の適用ができるか否か確認シートを用いてチェックしてみましょう。